【特別特集】新型コロナに教えられたこと – ハワイのAlohaとKuleanaの文化とコロナウィルス

ハワイのAlohaとKuleanaの文化とコロナウィルスにつ

チエン 静(バベル翻訳専門職大学院生 法律翻訳専攻)

 6月8日の新型コロナ特集を拝読した。世界各地の状況を知ることができ、有意義な特集である。特にウィットマイアさんのワーク・ライフ・バランスの意見に共感した。観光業に依存するハワイの現在の失業率は、地域により、20~37%である。ハワイで生活に困らない年収のラインは約800万円だそうで、複数の仕事を掛け持ちする人も多い。1LDKの家賃は最低15~20万円で、牛乳や卵、苺は500円以上する。このような状況であるにもかかわらず、楽観的な人は存在する。失業を機に、家族とサーフィンやお菓子作りを楽しむ人や、病院用の布マスクを製作して寄付する人が増えた。日本と比べると、欧米の失業のイメージはそこまで悪くない。 

 スーパーでは高齢者限定の営業時間が設けられ、インターネットを利用した宅配サービスや医療、ドライブスルーによる食材配布とPCR検査制度が新設された。これらのサービスにおいて増員が行われた。サービスに不備はあるものの、ハワイの人々は、助け合いの精神と感謝の気持ちをもって互いに接している(この文化をAloha spiritと呼ぶ)。医療、消防、警察、スーパー、宅配、バス等の生活に必要な(essential)職種の人々は、英雄として称賛される。

 ハワイには、ohana(家族、仲間)とkuleana(責任)という概念が存在し、大切なkupuna(お年寄り)とkeiki(子供)を守るために、公共ルールやエチケットを守る文化が存在する。上記の職種の人々や体の弱い人々を守るため、基本的に外出時のマスクの着用が必須となった。着用していないとバスやスーパーから追い出される。

 米国本土では、自由主義・個人主義の考え方が強く、多くの市民が様々な行動制限に不満を感じている。マスクは「個人の自由」であり、効果が薄いと考える人も少なくない。トランプ大統領も着用を拒んでいる。各州のコロナウィルスへの対応はバラバラであり、州によっては全く封鎖していないところもある。緊急時には国が舵を取るべきだと思うが、各州が自由に対応するため、競い合うこともあり問題になっている。ハワイ州は、医療従事者のPPE(防護服・マスク等)を入手するために入札競争に参加したが、より高い金額を提示したユタ州に負けてしまった。

 ハワイ州では、海外のみならず、米国本土及び他島からの来島者も14日間の自己検疫が義務付けられているが、法の抜け道を利用した本土出身の観光客、それを助長する格安旅行会社と民宿が後を絶たない。警察は、違反者を指名手配犯同様に扱い、顔写真をSNSに投稿する。自警団が違反者の居場所を通報することで、警察は逮捕に成功している。この厳重な処置を「憲法違反」、「共産主義」、「ファシズム」、「警察国家」等と非難する人もいる。住民による過剰な監視をvigilante(自粛警察)と呼ぶ声もある。実際、観光客が脅迫を受けた事件や、住民が観光客と間違えられる事件もあった。

 一方、ハワイは、厳しい対処のおかげで、本土より医療制度が劣っている(ICUのベッド数は338床である)にもかかわらず、死亡率が低く、感染者の95%以上が無事に回復した。ハワイには植民地化され、西洋の疫病が持ち込まれて原住民が犠牲になった歴史があるため、土地(aina)と民(kamaʻāina)を外部の人間から守ろうという意識が強い。環境面でも、観光客が減少した結果、海洋汚染が減って生物が海に戻ったことが報道されている。ハワイではオキシベンゾンを含有せず、環境に優しい日焼け止めが推奨されているが、それを知らずに有害な日焼け止めを持ち込む観光客が多い。

 私の夫は薬剤師だが、米国の薬剤師は、予防接種や患者へのインタビュー、薬の処方に関するアドバイス等を行うことができる。コロナウィルスで病院が埋まったとき、代わりに薬局に頼る患者も多かったので、薬局も人手不足となった。夫がマウイ島に3回出張し、2か月近く会えないこともあった。米国でマスクをしていると、病気を予防しているのではなく病人であると誤解されやすいので、医療従事者でさえ着用を禁止されていた。薬剤師にマスクが支給されたのは、ごく最近のことである。夫が業務上関わっている病院で集団感染が発生した時は不安に襲われ、他のアメリカ人がしているように、慌てて生命保険に加入し、終活も始めた(まさか30代で死を覚悟すると思わなかった)が、幸い、夫は無事に帰ってきた。現在は、夫婦ともに小さなことで動じなくなり、穏やかに過ごしている。

 パンデミックを機に、社会の良いところと悪いところ、そして自分の人生の過ごし方を見つめなおすことができた。世界は元に戻らないが、それならば、ポストコロナの世界で私達に何ができるのか考え、前向きに生きていきたい。

【プロフィール】
チエン 静
バベル翻訳専門職大学院生・法律翻訳専攻。東京都出身。海外在住歴は11年(コネチカット、ロサンゼルス、ロンドン等)。
現在、台湾系アメリカ人の夫とホノルルに暮らしている。法律事務所秘書、メーカーの海外営業の仕事で契約書を読む機会が多かったため、法律翻訳の道に進むことを決意。