【特別特集】新型コロナに教えられたこと – 人権について

ポストコロナを考える―人権につい

シュマース 千恵子(バベル翻訳専門職大学院生)

 「もし あなたが 自宅待機を しなかったら」 「コロナウイルス感染を さらに拡大させ続ける」-警告を示す真っ黄色な背景に、大文字黒字で力強く書かれているプレゼンテーション。バックサウンドはボーンという聴音検査で使われるような低い音。-「オレゴニアン(オレゴンに居住する人)全体の1.4%が 死ぬだろう」-心電図のピーッ、ピーッ、ピーッという音が聞こえ始める-「人には平均600人の知り合いがいる」「ということは、あなたの知り合いの5人が命を落とすだろう」「子供たちの学校の先生」「近所の人」-心電図の鼓動の音とプレゼンテーションのページ送りが加速をして-「チームメート」「バリスタ」「かかりつけの医師」-さらに加速-「お気に入りの美容師」「親友」「大好きなおばあちゃん」「おじさん」「妹」-鼓動とスライドが減速-「お母さん」「義理の弟」「パートナ―」「最愛の子供」-さらに減速-「何人 死ぬか 生きるかは あなた次第です」

 「不注意で誰かを殺さないで」---鼓動の音が止まる---「自宅待機をして命を救おう」

 3月下旬にオレゴン州知事が自宅待機命令を発令したが、春休みの観光旅行シーズンで無視する人々が続発した為に、感染予防対策キャンペーンの一環で、地元の医療関連会社と宣伝会社のウエイデン+ケネディーがボランティアで作成しオレゴン州知事の指示で流されているドラマティックなCMです。テレビ、ラジオ、SNS、インターネットで毎日繰り返し流されていました。

 毎日の新聞及びテレビのニューストピックスはコロナ一色。灰色の球体表面に細かい赤いピラミッドの足と黄色い粒がちりばめられたコロナウイルスのイメージを背景に「Covid-19 感染者何人、死者何人」「Covid-19どこそこの何歳の誰が亡くなった」「州政府知事がレストランを閉鎖」「食料品店では6ft規制を適応」「10人以上の人の集会、ミーティングが禁止」「 トム・ハンクスがオーストラリアでCovid-19に感染」。配信映画は、感染症の映画でマット・デイモンの「コンテイジョン」ダスティン・ホフマンの「アウトブレーク」(古い映画ですがお勧めです)。 ニュースや番組の途中で放映される州政府の黄色のCMは、特に最後の「不注意で大切な人を殺さないで」---鼓動の音が止まる--- の部分は現実と重なって、ホラー映画を見るよりもずっと怖い。通勤でフリーウェイを走っていると、電光掲示板には「自宅待機して命を救おう」と大きく書かれていて、ラジオでは「不注意で誰かを殺さないで」---鼓動の音が止まる---「自宅待機をして命を救おう」が流れていました。

 4月中の全米の失業者は14.7%で約2,050万人が失業しました。2007年から2009年の米国金融危機で最大だとされていた失業率の約2倍です。米国中で失業者が溢れかえっています。失業保険は通常保険金にコロナの特別保険金が上乗され、中所得者層にはコロナの見舞金が支払われました。個人事業主向けの救済金の第1回目は、一週間もたたず底をつき、第2回、第3回と救済が続いています。

 ミネソタ州知事の上院議員で医師でもあるスコット・ジェンセンが、4月のニュースのインタビューで、「国が病院に支払う保険補償額は、肺炎で亡くなると5,000ドル、コロナ認定で亡くなると1万3,000ドル、人工呼吸着想で3万9,000ドルに跳ね上がる。交通事故で亡くなっても、呼吸器系疾患があったり、コロナ陽性であれば、死因はコロナと記載できる。コロナの緊急予算は州別で感染者・死亡者数に対応した配分になっていて、ニューヨークは補償金目当てで7,000人から1万5000人へ死者数を訂正した。」と発言しました。

 パンデミックとその対策の歴史は、14世紀ヨーロッパのペスト、第一次世界大戦中アメリカのスペイン風邪、1995年アフリカのエボラ出血熱、2009年世界各国のH1N1、のように古くから存在し、人々を守ろうとする人の知識や努力は素晴らしいと思います。

 しかし、コロナで私が怖いと思ったのは病原菌ではありません。人です。体制を導く国や社会のリーダー達の判断と決定と遂行です。人権を守るために国や社会の造る体制です。

 感染を防いで死者を減らそうという大義名分、その努力の結果、全米の死亡者数が今日現在約200万人に留められているという事は理解できます。一方、生涯をかけて築いてきた命と同じくらい大切な職を失い、補償を受けられず、生活を変えることを余儀なくされた人々、志半ばで断念せざるを得なかったプロジェクトの参加者たち、延期となった東京オリンピック候補選手たちは、コロナの規制により運命を大きく変えられています。政治、宗教、思想、言論、出版、集会の自由な国のアメリカで、好調だった経済のほとんどを停止させる為に、自宅待機命令に伴う罰則や罰金政策だけではなく、一般の人の視覚、聴覚、人の心に訴えかけ、マインドコントロールという言葉が適切かどうかはわかりませんが、自宅待機を強制ができるということが驚異なのです。

 五体満足で健全な精神の人々が働けない状況、緊急事態宣言・命令の基準となる数字を簡単に大幅に変更できる状況は何かがおかしいのではないかと思うのです。

 おりしも5月末のミネアポリスのジョージ・フロイドの事件(白人警察官の黒人に対する暴力殺人事件)を受けてポートランドでも最大で約1万人という大規模な人権を訴える抗議デモが毎日のように続いています。中心街では建物のガラス窓にボードを張って暴動や盗難を最小限に食い止める措置がされているのを見ました。抗議デモは当初「最も平和的なデモ」と言われていたにもかかわらず、デモを抑えるために警察官が違法なテアーガス(目や皮膚に付着をすると痛みを伴い、吸引すると咳を引き起こし、目、鼻、口、肺の粘膜を分解するガス。息が吸えない状態に陥る)を使った為に、平和とは異なる方向へ進んでいます。3ヶ月近く自宅待機を強制されていた若者たちの人権に対する強い抗議のエネルギーを身近に感じています。

 マスクを作りました。家庭菜園を今年も始めました。必需品の買い物は2週間に1度に減らしました。選挙投票をしました。家族や友人とのビデオコールを再開しました。クラッシック音楽をかけています。子犬を飼うことにしました。子犬をコロナと名付けようとしたら家族の反対にあい断念しました。庭のバラを食卓に飾りました。ポートランドはローズシティーとも呼ばれバラが美しいことで有名です。バラは花を切り取るとすぐにまた新しい花をつけて春先から秋までその美しさを楽しむことができます。「人権」という永遠のテーマは大きすぎて、刻々と変わるアメリカ社会の動向の中で、コロナが教えてくれたこととして、まだまだ自分の中では咀嚼できていない状態ですが、楽しく穏やかな気持ちで健康で安全に毎日を過ごせるように、できることからはじめようと思っています。

【プロフィール】
シュマース 千恵子
バベル翻訳専門職大学院生・法律翻訳専攻、愛知県立大学英米学科学士号取得、名古屋市出身。愛知県職員、トヨタ自動車関連海外貿易事務、外国特許派遣業務等に従事。
2000年に渡米、アメリカ味の素、ナイスインターナショナルで、食品、住宅建材に関する翻訳、輸出入業務に従事。2020年よりバベル翻訳専門職大学院生として本格的に翻訳を学び、プロの翻訳家を目指す。