英文メディアで読む vol.86

日本企業と社会に変革を迫る「究極の嵐

この記事は、金融・翻訳 ジャーナリスト/バベル翻訳大学院教授 前田高昭 先生 のコラムからの抜粋です。

詳しくは「Web 版 The Professional Translator」をご覧ください。

金融・翻訳 ジャーナリスト/バベル翻訳大学院教授
前田高昭

コロナ危機は「偽れる祝福」

6月14日付のファイナンシャル・タイムズ紙は、「 Why this crisis is a "disguised blessing"(この危機が『偽れる祝福』である理由)」と題する記事で、コロナ危機が日本にとって一種の外圧となって、これまで何らかの理由で実現されていない変革を、日本企業や社会に迫っていると指摘する。

記事は、これまでの日本では考えられなかった変革を急速に実行しようとする経営者として、LIXILグループの瀬戸欣哉社長を紹介し、同氏は緊急事態が宣言された4月以降、パンデミックは大変悲惨なことではあるが、同社だけでなく、この機会がなければ実現できない変革を実行する好機と捉える日本企業の一部にとって、「不幸に見えて実はありがたいもの」(“disguised blessing”)、と物議を醸す(contentious)考えを抱いてきたと伝える。

バーチャル技術による変革を迫る「究極の嵐」

同氏はこの機会を生かせば、長く先延ばしされていた変革(a long overdue transformation)を加速させるだろうと語り、仕事の分析や情報とアイデアの企業間交換にかかわる方法についての変革、特にバーチャルリアリティの技術を駆使した変革を挙げていると報じ、さらに次のように述べる。

パンデミックによってLIXILのセールス担当者は地場のコントラクターや建築会社との会合をバーチャルに(virtually)持たざるを得なくなったが、それぞれの顧客と対面する(meet in person)よりも、1日当たり20のビデオ・コールを実施した方が、生産性が高いことがすぐに判明した。

4月に緊急事態が宣言される頃までには、同社東京本社の職員の98パーセント以上が家で働いていた。全国に93あるショールームが閉鎖された際、顧客はデジタル・ツールを使ってキッチンをバーチャルにデザインできた。

最高人事責任者(chief people officer)のジン・モンテサノは、コロナ流行は古い考え方を葬り去る「パーフェクトストーム(究極の嵐)」となったと語る。

見直しが始まる家屋のデザインや家庭内人間関係

行動規制によって同社も甚大な被害を受け、また経済が正常に服すにはきわめて時間がかかるとの見通しのなか、瀬戸社長は「不幸に見えて実はありがたいもの(“blessing in disguise”)」理論にあくまで拘った。

同氏は、コロナウイルス(Covid-19)が家庭内の問題を抱える人間関係に対して、どのような影響を与えたか、に焦点を絞ったのである。

家族が貧弱な間取りの生活空間に押し込められて過ごす時間が増えたことで、設計の欠陥が浮き彫りになったと同氏は語る。

日本家屋のデザインの見直しが始まり、家族全員が一緒に過ごすことになれば、複数のトイレ、個別の空間、その他多くのことが必要になり、家族の価値をも認識し始めるだろう、と同氏は指摘する。

Stuck at Home, Men in Japan Learn to Help. Will It Last?

家事手伝いを学ぶ日本男子

それでは家庭に閉じ込められ男性は、どのように過ごしているか。5月16日付ニューヨーク・タイムズ誌は「Stuck at Home, Men in Japan Learn to Help. Will It Last? (家に閉じ込められた日本男子、家事手伝いを学ぶ、何時まで続くか)」と題する記事で、コロナウイルスが家事分担の極端な夫婦間の不平等を暴いていると概略次のように報じる。

家事分担の不平等を明るみに出したコロナウイルス

ウエブでマーケティング・コンサルタントを務めるカタオカ氏は、家事(tasks)を既に十分に分担していると考えている。2人の子供を風呂に入れ、その歯磨きを手伝い、皿洗いをするなどリストにすると21項目になる。

しかし、それは認識不足も甚だしかった。看護学生(nursing student)であるカタオカ夫人の精細なリストによると、彼女の負担項目は210に達しているのだ。

共働きの夫婦(working couples)にとって、コロナウイルスの感染拡大防止のための在宅勤務(teleworking)や外出自粛措置は、とりわけ日本社会における家事分担の不平等を明るみに出した。

「コロナ離婚」危機で変わる日本の労働慣行

緊急事態が宣言されて平日も家で過ごす男性は、家事がいかに多いものかを目の当たりにする。洗濯や家計、料理など目に付かない家事労働に耐えてきた女性は、今や夫に手伝いを求めている。その結果、夫婦間で一触即発(combustible)の言い争いが始まる。

それでも一部の男性は、家族を身近に感じるようになったと語り、柔軟性に欠けることがある日本の労働慣行(work culture)が変わって、パンデミックが去った後も、家庭で過ごす時間が増えるようになるのを望む男性が出てくる。

日本で、はやり言葉となっている「コロナ離婚」(“coronadivorce”)の危機にあったカタオカさんも労働慣行を修正していこうとしている。

家事負担が軽い男性、家事負担が重く昇進が遅れる女性

上記のように報じた記事は、女性の家事負担(household burden)が多いのは日本に限らないが、富裕国の中では日本男性の家事や育児に割く時間が相対的に少ないと述べ、日本のネット・マーケティングリサーチ会社、マクロミル(Macromill)による昨年の調査では、共稼ぎ夫婦の半数が男性の家事負担は20パーセント以下だと回答していると報じる。

さらに記事は、安倍首相は以前から、職場における女性の地位向上政策を推進しているが、多くの女性が重い家事負担のために昇進が押さえられていると述べ、また政府データによれば、働く女性の約半数がパートタイムや契約社員(contract jobs)として雇われているが、男性の場合は5人に1人だと指摘する。

Japan’s army of insurance saleswomen feel threat of digital revolution

日本女性の伝統的な職場に脅威を与えるコロナ禍

メディアはまた、コロナ禍が日本女性の伝統的な職場に脅威を与えていると報じる。6月1日付ファイナンシャル・タイムズ誌は「Japan’s army of insurance saleswomen feel threat of digital revolution(デジタル革命の脅威を感じる日本の保険セールスレディ軍団)」と題する記事で、コロナウイルスによってオンライン・セールスの必要性が増すなか、対面勧誘を武器としてきた23万人の女性保険外交員が、デジタル革命の脅威を感じていると伝える。

激突する生保レディ軍団とオンライン販売

記事は、コロナウイルスは日本が先延ばししたかったアナログ対デジタルの決戦(showdown)を一気に早めており、生命保険のオンライン販売と強力な生保レディ軍団とが激突していると述べる。

都市部の中心地にあるオフィスが何ヶ月間も閉鎖されために、生保のセールスレディにとって潜在的顧客の一群がごっそり消えてなくなったとアナリストは指摘し、生保会社も契約獲得のためにメッセージ・サービスやビデオ会議アプリの使用を認め、さらにはスマホその他のオンライン・ツールを活用した新しい販売チャネルを開いていると報じる。

生保会社の命運を制するデジタル革命

またアナリストは、こうした動きがデジタル革命(digital transformation)の導入を頑固に遅らせてきた業界にとって転機(turning point)になるかもしれない、と語っていると伝え、さらに、生命保険会社の生き残りはデジタル革命への転換に意欲的かどうかにかかっており、販売方法の多角化が進むなか、業界として外交員数の適正規模についての再検討が必要になりそうだ、との専門家の見方を紹介する。