英文メディアで読む vol.88

2020年の日本 その4

安倍首相の唐突な退任と後継者への厳しい注文

この記事は、金融・翻訳 ジャーナリスト/バベル翻訳大学院教授 前田高昭 先生 のコラムからの抜粋です。

詳しくは「Web 版 The Professional Translator」をご覧ください。

金融・翻訳 ジャーナリスト/バベル翻訳大学院教授
前田高昭

安倍首相は8月28日、記者会見の場で辞任の意向を表明した。健康上の理由からであったが、余りに唐突な辞任表明だったため市場に衝撃が走り、海外メデイアも一斉に報道し、論評した。以下に、そうした論調を幾つか紹介する。

辞任は日本の損失

8月28日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Shinzo Abe’s Legacy(日本版記事:【社説】安倍晋三氏のレガシー)」と題する社説で、在職期間で最長だった安倍首相は日本を普通の(normal)国にしようと試みたと副題で述べ、健康上の理由で辞意を表明したのは日本の損失だと表明、改革に対する強固な反対(entrenched opposition)を乗り越えるためにしばしば苦闘したが、その意図は正しく、日本に改革が必要なことを認識していたと評価する。

日本を普通の国とするため多方面で努力

社説は、安倍氏の8年間の任期の特徴は、日本をいっそう普通の国に変えるための多方面にわたる未開拓分野での活動(multifront campaign)にあったとし、その政策はこうした言葉であまり評されていないが、適切な表現だと強調する。国内政策としてのアベノミクスについては、日本をゼロ成長から抜け出させ、世界第3位の経済を正常に機能する市場とするのが目標だったと論じる。

経済的遺産は超金融緩和のみだが企業統治で成果

アベノミクスの3本の矢について、逆風をついて飛んだのは残念ながら最初の2本だけだが、重要な勝利があるとして企業統治の見直しを挙げる。アクティビストによる投資を喚起し、組織が複雑で経営効率が劣った複合企業(conglomerates)に整理統合する(untangle)よう日本企業全体(Japan Inc.)に圧力をかけたと述べる。また長らく日本でタブー視されてきた移民増加策も容認したが、税金と規制改革は未完のままであり、2度の消費増税(consumption-tax increases)によって経済成長も後退、経済政策の主たる遺産(legacy)は日銀による超金融緩和政策だけとなったと指摘する。

適切だった対米・対中政策、対韓政策で躓き

外交政策のテーマも、日本を普通の国にすることだったと述べ、地域における軍事的責任の拡大について国民の合意取得が課題だったが、憲法改正の失敗で主たる目標達成に至らなかったと指摘する。しかし自衛隊の能力増強に資金を投じ、米、豪などとの同盟関係の強化に政治的資産(political capital)を活用したと述べ、特に保護主義を自認し(avowed)、対日貿易に長く懐疑的だったトランプ米大統領と早期に接触したのは賢明だったと評価する。ただしトランプ氏は、この恩返しの機会を逃したと述べ、安倍首相が国内改革を推進するうえで頼りとした環太平洋連携協定(TTP)からの脱退を挙げる。さらに韓国の従軍慰安婦問題への対応で躓き(missteps)があったが、安倍氏の外交と軍事的意志は、中国が地域内で拡張主義を続けるなか、日本にとって役立つだろうと主張する。

課題山積の後継者

社説は最後に、後継者は経済を再活性化し(reinvigorate)、日本と有権者が世界の諸問題についてもっと積極的な役割を果たすようにするためになすべきことが山積みだと述べ、安倍氏は後継者にそのための基盤を残したと指摘する。 

安倍辞任は日米双方に打撃

8月28日付ワシントン・ポストも社説「Shinzo Abe’s resignation could deal a blow to Japan and U.S. interests alike(安倍首相の辞任は日米の利益に同様の打撃)」で、安倍首相は幾つかの素晴らしい政治的成果(remarkable political accomplishments)を上げ、日本の戦後の平和主義から先見的な(proactive)防衛と積極的な外交への転換を推進し、特にトランプ大統領と同盟諸国の中で最も良好な関係の維持に成功したと述べる。このため安倍氏の辞任は、攻撃的な中国の抑止と北朝鮮の核兵器封じ込めの努力を含む米国のアジアにおける権益( interests)に打撃を与えると論評する。

弱体化が懸念される安倍後の政権

安倍氏が登場するまでは、7年間に7人の首相が交代する不安定な政局が続いており、安倍政権後は、後継者が誰であれ、弱体化するのは間違いなく、後継者は安倍氏の追随者(acolyte)となろうが、北朝鮮に対する確固とした姿勢や米国と共に中国に対決する同盟諸国に積極的に参加する意志が保持される保証はないと懸念を表明する。

政治的資産を浪費した主要目標

同時に、成功率が低い目標(long-shot goals)であった憲法改正や北方領土返還、北朝鮮拉致被害者の帰国などの問題は、安倍氏のナショナリスト的本能による政治的資産の無駄遣いとなったとし、そのため国民から批判を受けたコロナウイルスへの対応と共に記者会見の場で謝罪したと述べ、こうした廉直さ(candor)と謙虚さ(humility)を米大統領も学ぶべきだと指摘する。

構造改革や女性の機会拡大なども未達

さらにアベノミクスの中で政治的に最も困難な部分である競争力を高める構造改革(structural reforms structural reforms)が大きく未達となったと批判する。外国人労働者の増加を認めるために移民規制を緩和したが、女性のための機会拡大の公約は、女性をめぐる雇用や政治の問題において影響がほとんどみられなかったと述べ、こうした根深い問題への取り組みは今や、少なくとも短期的には政治的に安倍氏と比肩できない人物に任せられることになったと懸念する。

安倍首相の誇るべき遺産は大胆さ

8月30日付フィナンシャル・タイムズは「The boldness that has marked Mr Abe’s tenure needs to continue (安倍時代の特筆すべき大胆さを継承せよ)」と題する社説を発表、コロナウイルスは東京五輪だけでなく、安倍時代の経済的成果も奪い去ったが、それでも安倍首相には誇るべき遺産があると論じる。

新経済政策を導入し債務危機も回避

戦後最長の在任の首相となった安倍氏は、そのために日本に自身の刻印を押す機会を得たと述べ、官邸(prime minister’s office)へ権力を集中し、慎重な官僚国家である日本に過激な新経済政策を体験させたと述べる。ただし新政策アベノミクスには未達の目標があり、大量の国債購入にもかかわらず2パーセントのインフレ目標を実現できず、特に2度の消費増税が債券購入の効果を減殺したが、それでも円安(weaker yen)が一因となり経済成長と雇用は安倍時代に向上し、懸念されていた債務危機(debt crisis)も発生しなかったと述べる。

リベラルな社会作りに励む

安倍氏は自民党内で最右翼(most conservative wing)に属しているが、日本社会をリベラルな姿勢へ推し進め、人口が減少するなか、潜在的な労働力増強の必要性を理解し、女性を歓迎する職場作りに努めたと評する。このウーマノミクス(womenomics)と呼ばれる政策は、実際の効果よりも言葉としての影響が強かったが、極めて保守的な日本で安倍氏は物事を正しい方向に動かし始めたとし、同様の事例として移民政策を挙げ、安倍氏は経済的必要性に基づいて移民をゲストワーカーとして招き入れたと述べる。

国内政策と同様に開かれた姿勢で臨んだ外交政策

次いで外交政策についても、国内と同様に開かれた姿勢で臨み、グローバリゼーションと自由貿易が脅威にさらされるなか、EUとの貿易協定を締結し、トランプ米政権が撤退したTTP協定を他の署名国を説得して新たな協定、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)として再生させ、また対英貿易協定もまもなく合意に達する見込みだと評価する。

安倍後のリスクは官僚国家の復活

こう論じた社説は最後に、ナショナリストの安倍氏の社会改革(social reform)に対する開かれた姿勢や国際主義的な外交政策は、一部には驚きをもって受け止められているが、今日の日本では、ナショナリストも大胆な変革にオープンでなければならないことを賢明な安倍氏は十分に理解していたと述べ、安倍後の日本のリスクとして、不安定な政治の下で、過去に深刻な停滞を招いた官僚制が再び力を取り戻すことを挙げ、安倍時代の特筆すべき大胆さを継承すべきだと再度強調する。

劇的な成果は日本の地政学的地位の高揚

8月31日付ブルームバーグは社説「Shinzo Abe Had a Lot of Time, But Not Enough(安倍首相の潤沢だが十分でなかった時間)」で、その成果がいかに際立っていようとも、最長の期間、首相を務めた安倍氏は、気の遠くなるような未完の仕事を残したと批判的に述べる。社説は、アベノミクスの初期に経済成長、株価、雇用を押上げてある程度の成功を収め、前例のないほどの多数の女性と移民をそれぞれ職場と日本に送り込み、企業統治改革で役員会の様相や日本企業の行動を変えたが、最も劇的なことは、軍事的能力の強化とEUや米離脱後のTTP残留国との自由貿易協定を推進し、日本の地政学的地位(geopolitical standing)を高揚させたことだろうと指摘する。

長いリストになる今後の課題

とはいえ、経済成長、賃金、インフレは実質的に伸びておらず、コロナウイルスのために経済は安倍就任前の規模に戻ってしまったと指摘、日銀による巨額の刺激策がクッションとなっているとはいえ、これからなすべき仕事は長いリストになると述べ、起業やイノヴェーションを妨げる諸規制、労働力の移動や賃金の伸びを阻害する年功序列制度(seniority-based employment system)、多くの若者が保障やキャリアの見込みがほとんどないまま従事する非正規労働(irregular work)などを挙げて、改革の必要性を訴える。さらに安倍政権が初期にとりあげた性別による賃金格差(gender pay gaps)への対処や女性に安定したキャリアを発展させるに足る柔軟性や育児支援(child-care support)を提供する施策なども、その成果は限定的であり、日本の企業文化を変えるために引き続き強力な指導者が必要だと主張する。

誇るべき実績を上げた国際分野

次いで国際分野では、安倍氏は国内よりも誇るべき実績を上げたと言えるかもしれないと述べ、日本を自由で、法に基づいたグローバルな秩序の強力な擁護者(forceful advocate)として構築したと述べ、これらは米国との協調によっているが、自由貿易は独自の努力によると評価する。ただし不毛な(futile)と表現する韓国との貿易紛争や日本憲法第5条の改正問題に言及し、こうした注意に欠けた(heedless)行動が、初期の大胆な経済改革から後退した原因かもしれないと述べ、日本が人口動態や財政などの戦略的な厳しい挑戦に立ち向かおうとするならば、後継者は同じ間違いを犯す余裕はないと警告する。

安倍氏の後継者は「修理屋」

次に安倍氏の後継者に関する報道を一部みてみよう。9月1日付ワシントン・ポストは、「Japan’s ‘Mr. Fixit,’ Yoshihide Suga, set to succeed Shinzo Abe as leader (日本の「修理屋」、菅官房長官が安倍氏の後継者へ))」と題する東京支局長の記事を掲載し、安倍首相の右腕(right-hand man)である菅官房長官が与党内の有力派閥(key factions)の後押しを得て後継者となるようだと報じる。記事は、熟練した裏方(backroom operator)と評される菅氏は、公人としてはカリスマ性でやや劣る(a less-than-charismatic public figure)が、安倍氏の最大のライバルである石破氏の挑戦を退けるとみられると伝え、理由として与党の自民党(the ruling Liberal Democratic Party)が9月14日に予定されている党総裁選挙は衆参両院議員と都道府県代表者によって行われ、一般党員を除く決定をしたことを挙げる。

安倍路線を継承する後継者

これにより次期首相の選択は年長の男性からなる少数の黒幕的人物(power brokers)の手に委ねられることになり、彼らは国民の支持(popularity)よりも継続性と安定を優先することが既に明らかになっていると指摘、こうした動きは全て石破氏の勝利を阻むためだ、と語るコロンビア大学の日本政治専門家、ジェラルド・カーティス教授のコメントを紹介する。ただし同教授は、菅氏はコロナ問題を終息させ、経済の強化にも成功して国民の評価を得るだろうとみていると伝え、外交政策について、菅氏は外交の専門家でなく、安倍氏のような国際舞台での地位にも欠けているが、安倍氏の外交路線を継承し、米国との同盟関係の強化と対中関係の改善に努めるだろうと伝える。

安倍氏の退場は最大のリスク

次に、上記の外交政策の要となる対米外交に関する論調を、9月2日付ウォール・ストリート・ジャーナルの「Shinzo Abe’s Departure Throws Wrench Into U.S.-Japan Ties(日本版記事:安倍首相の退陣、日米連携の波乱要因になるか)」と題する記事から観察してみよう。記事は冒頭で、米国と同盟諸国が中国の軍事的拡大に対処し、日本に駐留する(basing)米軍の費用負担をめぐる協定の更新について日米が交渉を行っている状況のなかで、安倍氏を失うことは最大のリスクの1つになるだろうと指摘する。

同盟関係の強化に邁進した安倍首相

安倍首相は議会の反対を乗り切って、一部の紛争に際して米国を支援するための新たな権限を自衛隊に与え、日米同盟(U.S.-Japan partnership)を強化し、豪、印など他の主要民主主義国との地域的な同盟関係の構築にも主動的役割を果たし、中国の台頭に対抗したと評価する。インドのモディ首相とも個人的に良好な関係を築き、モディ首相は28日、「インドと日本の関係はかつてなく深く、強くなった」とツイートしたと述べ、中国の「一帯一路」構想に対抗する米国の公海政策(open-seas policy)、「自由で開かれたインド太平洋」は、もともと安倍氏の提案だったと指摘する。

対米外交には創造性や個人的信念が必要

最有力(front-runner)の後継候補に浮上した菅氏には外交面の経験がほとんどなないが、昨年5月に訪米し、ペンス副大統領やポンペオ国務長官と会談、北朝鮮による日本人拉致問題を協議していると述べ、9月の国会で首相に選出されれば、同氏はただちにトランプ氏との関係構築(developing a relationship)に動くだろうとし、日本の米国に対するアプローチが変わる可能性は低いと指摘、NHKが今年実施した調査によると、日本人の73パーセントは同盟関係の維持ないし強化を望んでいると報じる。菅氏は、安倍氏を継承するうえで最も明白な選択肢だが、問題は、日本が米国寄りの政策(pro-U.S. policy)を導くに際して安倍氏のような創造性(creativity)や個人的信念(personal conviction)を発揮できるかどうかだと指摘する。

米大統領選後の状況変化に注意

さらに社説は、日本の新たな指導者はセンシティブな防衛問題でかじ取りを直ちに迫られるだろうと述べ、米国からの(陸上配備型迎撃)ミサイル防衛システム(U.S. missile-defense system)の導入計画に代わる独自の能力開発の必要性や在日米軍駐留経費の分担(military cost sharing)の問題を挙げる。日本は中国の軍事的拡張(military expansion)に関する米国の懸念を共有し、自国領土の一部に対する中国の脅威を警戒する一方で、対中外交および経済関係の安定にこれまで努めてきたが、11月の米大統領選後には、突然の米中対立の激化(flare-up)や休戦への方向転換など日本政府の不意を付く(wrong-foot)ことが起きる可能性があると警告を発する。


結び:以上のような論調を整理すると、メディアは安倍政治の特質を、日本を普通の国とする努力、大胆さ、潤沢だったが不十分な時間などと表現し、多大な功績を残したと評価、それ故に辞任は日本や米国にとって損失になるが、同時に、やり残したことも多く、後継者は気の遠くなるような正と負の遺産を引き継いだと総括する。国内政策ではアベノミクスについて、大胆な超金融緩和とそれによる円安効果によって経済再生にある程度成功したと評価する一方、構造改革は道半ばで多くの未完の仕事を残したと指摘する。ここで注目されるのは、この構造改革推進への提言と官僚制復活への警戒感であろう。

対外政策では、米国を始めとする同盟諸国との関係強化に努め、米国が撤退した自由貿易の分野でアジアと世界を牽引し、台頭する中国に対抗したと評価するが、防衛分野などで米大統領選後の予想外の状況変化に注意すべきだと警告する。そのうえでメディアは、こうした安倍政権の遺産を引き継いで、後継者が未完の分野を達成することに期待を表明、安倍首相の後継者として浮上した菅官房長官を、安倍政権の裏方で熟練した修理屋と評されているとして歓迎するのは、こうした見方の延長戦といえる。ただし、ここでも後継者は外交防衛問題で資質が問われると問題提起しているのが注目される。

上述のようにメディアは、安倍辞任問題に相当の関心を示し、かなりのスペースを割いて報道、論評している。それはまた安倍首相の内外に渡る活躍が、良きにつけ悪しきにつけ、相応の影響力を残し、ひいては日本の世界における存在感の向上に結びついたためと言えるかもしれない。現に、メディアの一部は、安倍氏が日本の地政学的地位を高揚させたと評している。後継者は海外メデイアからも厳しい期待と注文を突き付けられ、まさに内外の幅広い分野全般で試練にさらされているといえよう。

(注)要約:メデイアはまず、安倍首相の辞任は日米双方にとって損失だと論じる。その功績として、日本を普通の国とするために推進した国内改革、戦後の平和主義から先見的な防衛と積極的な外交への転換、トランプ米大統領を含む同盟諸国首脳との良好な関係維持、攻撃的な中国の抑止と北朝鮮の核兵器封じ込めの努力などを挙げる。経済的遺産としては、超金融緩和、企業統治、移民規制の緩和などの政策を挙げる。

 ただし在任が歴代最長という潤沢な時間があったにもかかわらず、気の遠くなるような未完の仕事を残したと批判、そうした課題として、税金と規制改革、2度の消費増税による後退した経済の再生、競争力を高める構造改革、女性のための機会拡大などの政策を列挙、さらに起業やイノヴェーションを妨げる諸規制、年功序列制度、多くの若者が従事する非正規労働などを挙げて、改革の必要性を訴える。また政権初期にとりあげた性別による賃金格差への対処や女性に安定したキャリアを発展させるに足る柔軟性や育児支援の提供なども成果は限定的であり、日本の企業文化を変えるために強力な指導者が必要だと主張する。

 その一方で、安倍首相の誇るべき遺産は大胆さにあり、官邸へ権力を集中し、慎重な官僚国家である日本に過激な新経済政策を体験させたと評価する見方も示される。大量の国債購入にもかかわらず2パーセントのインフレ目標を実現できず、特に2度の消費増税が債券購入の効果を減殺したが、それでも円安が一因となり経済成長と雇用は安倍時代に向上し、懸念されていた債務危機も起きなかったと述べる。また日本社会をリベラルな姿勢へ推し進め、潜在的な労働力増強の必要性を理解し、そのためにウーマノミクス政策を推進、女性を歓迎する職場作りに努め、さらに移民をゲストワーカーとして招き入れたと指摘する。

 外交政策のテーマも日本を普通の国にすることだったと述べ、自衛隊の能力増強、米、豪などとの同盟関係の強化、特に保護主義者で対日貿易に懐疑的だったトランプ米大統領との早期の関係緊密化を評価する。さらに自衛隊の軍事的能力の強化とEUや米離脱後のTTP残留国との自由貿易協定締結を挙げ、日本の地政学的地位を高揚させたことが最も劇的な成果だと指摘する。また外交政策にも開かれた姿勢で臨み、国内よりも誇るべき実績を上げたと言えると述べ、EUとの貿易協定締結、トランプ米政権が撤退したTTP協定を環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定として再生させたこと、まもなく合意に達する見込みの対英貿易協定などを挙げ、安倍氏は日本を自由で、法に基づいたグローバルな秩序の強力な擁護者として構築したと評価する。 

 しかし憲法改正の失敗で、地域における軍事的責任の拡大についての国民の合意を取得できず、さらに韓国の従軍慰安婦問題への対応を躓きと批判、北方領土返還、北朝鮮拉致被害者の帰国などの問題も未達となり、政治的資産の無駄遣いとなったと指摘する。ただし安倍氏の外交と軍事的意志は、中国が地域内で拡張主義を続けるなか、日本にとって役に立つだろうと主張、同時に、これらの失敗について、コロナウイルスへの対応と共に記者会見の場で謝罪したことを挙げ、こうした廉直さと謙虚さを米大統領も学ぶべきだと論じる。

 安倍後の政権については、安倍氏が登場するまで日本は不安定な政局が続いており、安倍後の日本のリスクとして、不安定な政治の下で、過去に深刻な停滞を招いた官僚制が再び力を取り戻すことを挙げ、安倍時代の特筆すべき大胆さを継承すべきだと強調する。有力後継候補とされる菅官房長官を日本の「修理屋」、安倍首相の右腕で熟練した裏方と評されていると紹介、カリスマ性では劣るが、安倍氏の最大のライバルである石破氏の挑戦を退けるとみられると報じ、理由として党総裁選挙が衆参両院議員と都道府県代表者によって行われ、一般党員が除かれたことを挙げる。菅氏は外交の専門家でなく、安倍氏のような国際舞台での地位にも欠けるが、安倍氏の外交路線を継承し、米国との同盟関係の強化と対中関係の改善に努めるだろうと論評する。 

 外交政策の要となる対米外交に関しては、ウォール・ストリート・ジャーナルは中国の軍事的拡大への対処や在日米軍の費用負担協定の更新を控えて、安倍氏を失うのは最大のリスクの1つになると指摘、安倍首相の功績として、日米同盟強化による中国への対抗努力、対米支援のための自衛隊への新権限授権、豪、印など他の主要民主主義国との地域的な同盟関係の構築主導、「自由で開かれたインド太平洋」の提案などを挙げる。菅氏は外交経験に乏しいが、訪米経験もあり、首相に選出されれば、ただちにトランプ氏との関係構築に動くだろうと述べ、日本の対米姿勢の変化はないだろうと論じる。ただし問題は、安倍氏のような創造性や個人的信念を発揮できるかどうかだと指摘、さらに新指導者は防衛問題でかじ取りを直ちに迫られ、米ミサイル防衛システムの導入計画に代わる独自の能力開発の必要性や在日米軍駐留経費分担問題を挙げる。日本は中国の脅威を警戒する一方で、対中関係の安定にこれまで努めてきたが、米大統領選後には、突然の米中対立の激化や休戦への方向転換など予想外の事態に備えるべきだと提言する。