Black Lives Matter をどう訳す

バベル翻訳専門職大学院(USA) 副学長 堀田都茂樹

Black Lives Matter をどう訳す

約2か月前、米国での白人警官による黒人男性暴行死事件をきっかけに
黒人差別への抗議デモ「Black Lives Matter」が日本でも広がっています。

そもそも発端は、2012年、米国のフロリダ州で黒人の少年が自警団の男に射殺された事件がきっかけでした。翌年、自警団の男性に無罪判決が出たことに抗議した黒人女性がSNSを通して世界に拡散したと言います。

現代米国文学翻訳の第一人者である柴田元幸さんによると、「このスローガンBlack Lives Matterは、いかに黒人の命が軽視されているか、改めて知らされた衝撃から生まれた。現実の否定的な側面に声を上げることから始まった点が重要」と主張しています。

では、ここで、Black Lives Matterで展開されている翻訳論争をご紹介しましょう。

Black Lives Matterの翻訳として、
・「黒人の命は大切」
・「黒人の命も大切」
・「黒人の命こそ大切」等
助詞一つで微妙なニュアンスの違いが生まれてきます。

柴田元幸さんは、これをどう訳すかの取材を受けて以下のように語ったと言います。

「『黒人の命も』とした場合、白人の命がまず大事という前提だとの非難は免れがたい。
『黒人の命こそ』とすると黒人の命ばかりが強調され、いわばひいきの引き倒しになってしまう。『黒人の命は』では『黒人は人間だ』と言うのと同じような不自然さがある」と指摘している。そして、「翻訳はちゃんと考えれば一つの正解にたどりつけるものではない」と。

黒人差別について、家族や身近な人と話し合うための資料を作成、翻訳しているプロジェクト、Letters for Black Livesでは、2016年活動開始時にはBlack Lives Matterを「黒人の人たちの命を大切に」と翻訳していたが、今年に入って「黒人の命を尊重しろ」に変更したと言います。

翻訳とはことほど左様に、表現者の想い、時代背景、文脈によって、進化、変容していくのでしょう。だからこそ翻訳は難しいとも言えるし、許容範囲の中で遊ぶ楽しみもあると言えるのでしょう。

なお、今回の私の原稿は、投稿者、佐々木理恵子さんに触発されたものです。

更に、読者の皆様からの反人種差別に関する、体験談、ご意見をいただければ有難く。
投稿お待ちします。

●投稿規定
・主題「反人種差別、暴動に想う―人種差別をどう考える」
 タイトルは皆さまご自由におつけください。

・本特集はThe Professional Translator 2020年8月7日・8月22日の2号に亘るものを、BあEL グループ編集室が引用しています。

・原稿締め切り日(掲載号一週間前・日本時間)
 8月22日(土)掲載分→8月15日 (土)

・ワードデータで文字数の目安は1,000字から2,000字
   文末に個人プロフィールを2、3行必須 

・投稿を希望する方はコンタクトフォームよりお知らせください。

・この投稿には基本的には原稿料は発生しません。

皆様の貴重な考えを多くの読者と共有させてください。