【特別特集】反人種差別、暴動に想う~人種差別をどう考える

人種のるつぼでBlack Lives Matterを考える

木村 恭子(バベル翻訳大学院修了生)

57年続いてきたフラの大会、メリーモナークが中止になり、州外からの到着者への隔離命令が出て、観光が主な産業であるハワイの失業率は23%となりました。私の住むマウイだけでみると、政府関係者を除いた民間だけの失業率は50%を超えました。全人口が140万人ほどのハワイ州で働きたい人の30万人が失業している事態は尋常ではありません。9・11でもリーマンショックでもこれほどの影響はありませんでした。

このような犠牲を払って、ハワイ州は感染者数も致死率も全国で最低です。地理的に離れていることも、知事がトップダウンで決断せずに関係部署の意見を尊重したことも、感染が抑えられている理由の一つですが、一番大きいのは日系人を始めとするアジアの文化も根付いていて、他人に迷惑をかけないようマスクをしたり、我慢することでコミュニティを守ろうとしたり、年長者を敬う気持ちが強かったりということが貢献していると思います。

そうして5月に入ってからは新規感染者がゼロの日もあり、5人以下の日が続いてきていました。それを受けて6月5日からはレストランの営業許可も発表された矢先にジョージ・フロイドさんの事件が起こりました。ホノルルでも6月9日にデモがあり、1万人が集まってしまいます。感染のリスクを冒してまで、これだけ多くの人がデモに参加しなければならないほど、人種差別の問題は人々の中に渦巻いていたのです。

ハワイ州は白人を含めて過半数を占める人種がいません。誰もがマイノリティです。うちの二人の娘はマウイ生まれてでマウイ育ち。幼稚園のころから様々な人種のお友達が回りにいて、普通に一緒に遊んできました。遠足のお弁当も梅干しのおむすび持っていくうちの子、ピーナッツバターサンドイッチの白人の子など様々です。味付け海苔をおやつに持っていくうちの子に、「そんなもの持って行っておかしくない?」と聞いたら、「クッキーと違って誰も欲しがらないから、独り占めできる」という返事。誰も違った文化を奇異なものとは考えず、心から受け入れて育っています。今は長女はワシントンDCで就職し、次女はニューヨーク市で大学に通っていますが、人種差別があるのであろう環境でもたくましく、違ったものを受け入れる能力を生かして頑張っています。

それでもなお、Black Lives Matterはハワイの人々の心も傷つけていたのです。マスクの強制を躊躇する州も多くありますが、黒人奴隷制度のもとに、マズルという口かせが使われていたことがあり、この形状がマスクに似ていることから、自由を束縛する象徴ととらえる人も多いのでしょう。翻訳をしていると、文化的背景を理解しなければいけないことが多くあります。生まれ育った国とは違う土地で生活することで、別の文化を学びます。いろいろな宗教の違った考えも学びます。自分の考えだけが正しいのだと思わずに、ちょっと他の考えものぞいてみることで、ずいぶんと人生も広がっていきます。

【プロフィール】
木村恭子 
バベル翻訳大学院修了。ハワイにてホテル経営会社勤務。マウイホテル協会会長、日系人商工会議所会頭など経験、現在ハワイツーリズムオーソリティ理事、日系二世退役軍人記念館理事。ジョージH.W.ブッシュ前大統領の同時通訳を務めた経験あり。