【特別特集】反人種差別、暴動に想う~人種差別をどう考える

人種差別が与える苦しみ

ウォーカー 美穂子(バベル翻訳専門職大学院生 法律翻訳専攻)

私は、20代から30代にかけて人種差別を何度も受けました。日本人として差別されたのではなく、フィリピン人かタイ人であると勘違いされたためです。肌がすぐに焼けるせいか、東京に住んでいた時もフィリピン人だと思われたことが数回ありました。フィリピン人の女性との会話の中でも、

「あんたはフィリピン人でしょ?何で日本人だと言って嘘付くの?」

と、怒られたこともあります。最悪な経験は、タイのプーケットにあるマリオット・リゾートに新婚旅行で行ったときでした。私は、早速、周りのリゾート客にタイ人だと思われ、主人がイギリス人(白人)であるためか、唯一のミックス・カップルとして余計に目立ってしまいました。人々の目付きからして、タイ人のエスコートと<付添い、或いは売春婦呼ばわり(?)>勘違いされたのでしょう。特に米国の南部から来ていた中年の女性達は、通り過ぎる度に私のことをにらみながらコソコソ話す様子でした。それがとうとう我慢できなくなり、

”Do you know?  I’m actually from the States and I’m Japanese”(「私は、日系アメリカ人ですけど」)

と言うと 、びっくりして目を大きくし、恥ずかしそうな表情で去っていきました。リゾート客には、日本人カップルも一組いたのですが、男性の方は、横目で私を怪しげに見ながら泳いで行きました。「日本人ですよ。」と言いたかったのですが、奥さんと子供がプールサイドにいて、話しかけたら勘違いされて問題になる可能性を考えてやめました。新婚旅行の3日目、プールサイドにいたアメリカ人家族の次男が母親に、「ママ、東京は今何時?」と聞いていたので、チャンスをつかんで

“Are you visiting from Tokyo? We’re from Tokyo too.”(「東京から来たのですか?私達も東京からです。」)と話しかけたら、

“You’re Japanese?!  I totally thought you were from here. I’m so sorry!”(「日本人だったの?てっきり現地の人だと思っちゃった。ごめんなさい!」)

と必要以上に謝られました。私の国籍によって周りの態度がこんなに変化するものかと感じて、悔しさと残念な思いでいっぱいになりました。また、タイ人やフィリピン人の女性が実際に普段から経験することあるべき人種差別を経験し、そのような人種差別を受けることが如何に苦しいことかが分かりました。

さて、今年の3月も新型コロナが始まってから、久しぶりに人種差別といえる経験を受けました。皆さんもご存知かもしれませんが、豪州など西洋諸国では、日本を含むアジア諸国と違い、マスクを着用する習慣が左程ありません。その環境で新型コロナが広がり始めていたので、外出する際に何度かマスクを着用しました。これは、米国のトランプ大統領が新型コロナを「チャイニーズウィルス」と呼んだ数日後のことでした。ある大型店舗に行った時に、周りの大人、特に男性が私のマスク姿を見てコソコソ話して笑っていました。多分、マスクをしているアジア人の姿が面白かったのでしょう。私がそのコソコソに反応しなかったためか、二人の男性が自信を持って大声で笑い始めたので、その二人の横を通り過ぎる時に、

”Come on! Stop starin’!” (直訳すると「行こう!見るな!」ですが、私なりのニュアンスとしては、「いい加減にしろ!」という意味で言いました。注:”staring”でなく”starin’”と省略する事により、丁寧ではない、くだけた言い方になります)。

小柄なアジア人女性に英語で怒鳴られると思っていなかったように、その二人は、焦った表情で咄嗟にいなくなりました。この出来事もかなり頭にきましたが、マスクに慣れていない文化で、且つ、新型コロナの深刻さを理解していない人々にとって、マスク姿は面白く見えたのでしょう。

さて、私は、タイ人かフィリピン人のエスコートと勘違いされ、マスク姿を笑われる程度の人種差別的な経験を受けましたが、Black Lives Matter運動について考えると、黒人であるために日常から暴行されたり、理由なく警察により取り調べされたり、又は射殺されてしまった人のことを考えると、その苦しみと怒りが想像できません。

私が読んだ中では、例として、家電を修理するサービス業の黒人男性が、仕事のために夜間に白人住宅街を訪問しているところ、警察にあまりにも頻繁に止められるために夜間の仕事ができなくなった。また、黒人男性が愛車を運転していると、警察に止められて誰の車であるか、誰から車を借りたのかを聞かれ、自分の車であると答えると、その証拠となる書類を持っているかを聞かれた。免許を見せろと言われてバッグかポケットから免許を取り出しても、その時点で拳銃を持っていると勘違いされ、警察に撃たれるかもしれないという恐怖。

また、長距離電車でファーストクラスに黒人が乗ろうとすると、「ここは、ファーストクラスですよ。」と言われ、自分の席がファーストクラスにあることを説明すると、「チケットを拝見させて下さい。」と言われた。ところが、その黒人男性の後に乗車した白人客等は、チケットの拝見を要求されなかった。

2019年10月12日、テキサス州。28歳のアタティアナ・ジェファーソンが自宅で甥とビデオゲームで遊んでいる最中、警官により窓の外から射殺された。その理由は、ジェファーソン宅の玄関のドアが深夜に開いたままになっていたことを不審に思った隣人男性が警察を呼び、その結果、現場に到着した警官が何故かジェファーソンに発砲したのである。警察を呼んだ隣人男性は、親切心でジェファーソンを守るために警察を呼んだのだが、その行為で逆に彼女は射殺されてしまった。

2020年2月23日、ジョージア州。25歳の男性アマード・アーベリーがジョギングしている最中、強盗犯と間違われ、白人の元警官親子にショットガンで射殺された。

3月23日、ケンタッキー 州。薬物の捜査令状を持った警官が救命士である26歳のブリオナ・テイラーの自宅に強制侵入。彼女は、3人の警官により合計8回撃たれて即死。しかも、捜査の結果、その自宅に麻薬は存在しなかった。

5月25日、ミネソタ州。警官が46歳の黒人男性ジョージー・フロイドを逮捕している最中に、フロイドを地面に寝かせて彼の首の上にひざまずいた。呼吸ができないことをフロイドが苦しそうに訴え、数人の目撃者が歩道で立ち止まり、その現場を携帯で撮影しながら警官を非難しているにも関わらず、その警官は、フロイドの首をひざで押さえ続け、フロイドは後に死亡した。人種差別の経験者として、このような人種差別を日常から経験していたら、どれだけ苦しいかが想像できません。

私は、人種差別を受けた経験者です。皆さんの中にも、あらゆる理由で人種差別を受けた方がいるでしょう。世界のすべての人々が、人種差別が与える苦しみと怒りについて考慮し、少しでも人種差別を軽減することにより、肌色に限らず差別のない世界を実現できれば、世界中の苦しみ、悲しみと怒りを取り除いてお互いの文化の多様性を尊重することができる世の中になるでしょう。

【プロフィール】
ウォーカー美穂子
社内通訳とフリーランス翻訳を合計約15年経験した後、法律翻訳家を目指して2016年7月にバベル翻訳専門職大学院に入学。2019年、出産のため一年間休学し、今年2月から勉学に復帰。現在、豪州に在住。