翻訳者の資格が問われる時代に突入!!

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翻訳の国際規格が日本でもスタート!

EU発の翻訳の国際規格、ISO17100が2015年4月に日本でも発行されました。これまでISO(国際標準化機構、本部ジュネーブ)は様々な国際技術規格を世界標準とすべく、規格を策定、世界に普及させようとしてきました。

以下に翻訳関連する規格を列挙しましょう。

・ISO 9001:2008
文書化プロセスと手順に適用される規格。
・ISO 27001:2005
文書化された情報セキュリティマネジメントシステムの構築、導入、運用、監視、維持、改善のための要件を規定する規格。
・EN 15038:2006
欧州標準化委員会によってヨーロッパの翻訳/ローカリゼーション専用に作られた品質規格。
・ISO 13485:2003
ISO 9001を基にした規格で、医療機器と関連サービスの設計、開発、製造、設置に焦点を置いた規格。
・ISO 14971:2007
医療機器の翻訳サービス全体を通してリスク管理のあらゆる側面が考慮されていることを確認するプロセスを提供する規格。(ISO 13485を補完するもの)

その内に、TC(Technical Committee)37という言語、内容及び情報資産の標準化をめざす専門委員会が設置され、その下にはいくつものSC(Sub Committee)が設置されています。この17100もこの中で検討され、ISO17100( Requirements for translation Services)は
翻訳の国際規格として昨年誕生しました。

私は日本翻訳協会の一員としてこのISO17100DISの検討プロジェクトに参画してきました。

日本はとかくこのようなルール創りには蚊帳の外に置かれがちですが、我々翻訳者ひとりひとりの課題としても正面から向き合う時が来たように思います。

これが、我々バベルグループが40余年にわたり独自に追求してきた、‘ 翻訳のプロフェショナリズム ’を確立することでもあるからです。

翻訳のプロフェショナリズム

また、私が関わっている日本翻訳協会において一昨年スタートした『JTA公認 翻訳プロジェクト・マネージャー資格試験』についても、このISO17100に準拠し、それを越える(翻訳品質のみならず、ビジネスとしての健全性を含む)資格としてスタートしました。
http://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam_tpm.html

この業界で長い方はご承知かと思いますが、ISO9001という品質マネージメント規格は、ローカリゼーション翻訳の世界では、国際規格として採用され、翻訳会社( Translation Service Provider) によってはこの認証を取得して、クライアントにたいする営業のブランド力としていました。しかし、その後、翻訳の業界にはそぐわないとして欧州規格EN15038が創られ、これが次第に浸透するようになりました。そこでISOはこのEN15038をベースとして、ISO17100の開発に踏み切ったという訳です。

このISO17100は、‘翻訳のプロフェショナリズム’の確立という意味でも大事な視点を含んでいます。

まず注目すべきは、このISO17100は翻訳会社のみならず、クライアント、その他のステークホールダーを巻き込んだ規格であるということです。

また、この規格では翻訳者の資格(Qualification of Translators)、そしてチェッカー、リバイザーの資格を明確にしようとしていることです。すなわち、翻訳者を社会にどう認知させるかという視点をベースにもっているということです。

 

翻訳者の資格(Qualification of Translators)
(1) 翻訳の学位
(2) 翻訳以外の学位+実務経験2年
(3) 実務経験5年
(4) 政府認定の資格を有する
のいずれかが必要と謳っていました。

しかし、最終的には「(4) 政府認定の資格を有する」は訳あって外れました。
また、実務経験何年というのが曲者でどのようにはかるのでしょうか。

また、翻訳プロセスについても
Translate
⇒ Check
⇒ Revise
⇒ Review
⇒ Proofread
⇒ Final Verification
とその品質確保の要求プロセスを規定しています。
*Reviewはオプション

これらの要求項目は、まさに業界とそれを取り巻くクライアント、エンドユーザーが一体と
ならないと達成できないことです。翻訳の品質を一定に保つためにはこれらの視点、プロセスが必要であることをクライアントが納得していただけなければならないわけで、それがなければ翻訳業界の発展も見込めないわけです。

私は、2000年、米国に翻訳専門職大学院( Babel University Professional School of Translation)を設立しAccreditationを取得するために、米国教育省が認定している教育品質認証団体、DEAC( Distance Education Accrediting Commission)のメンバー校になるべく交渉をした経験があります。

このAccreditationを取得するプロセスでは、約3年の年月と、1,000ページに及ぶ、Educational StandardsとBusiness Standards遵守の資料の作成が要求されました。
その後、これらの資料に基づき、監査チーム(5名)を米国事務所に迎え、プレゼンテーションをし、査問、監査を受けるわけですが、こうしたルールにどう準拠するかのやり取りは、嫌というほど経験しています。

自分で選択したとは言え、その経験があるがゆえに、既に作られたルールに意図に反して従わざるを得ない無念さを痛感していました。翻訳の教育はこうなんだ、他の学科を教えるのとはこう違うのだといっても、所詮、ヨーロッパ系言語間のより容易な‘翻訳’を‘翻訳’と考えている彼らには、その意味が通じず、いつも隔靴掻痒の思いがありました。

従って、ルールメーキングの段階からこの種のプロジェクトに関わる必要性を痛切に感じてきました。

ISOに指摘される以前に、私の持論としては‘ 翻訳者は翻訳専門の修士以上の教育プログラムを修めるべき’ と考えています。翻訳は専門と言語力の統合があってこそ可能、すなわち、大学院レベルの教育であってしかるべきと考えています。

ということで、時代は動いています。ISOが一番に指摘しているように、翻訳者は少なくとも翻訳のディグリー、できれば修士号を持ちたいものです。

 

それこそが、翻訳業界の発展、‘翻訳のプロフェショナリズム’の確立でもあるからです。

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